園長 東 晴也
皆さんは、自分が使用する言葉の意図をしっかり他者に伝えるために、何か特別に工夫していることはありますか?
先週、久しぶりに降園が「コース」(註)になり、私は紫コースを園児の皆さんと一緒に歩きました。歩き終わり、保護者さまの待つゴール地点に着いて、
「では、みなさんで、さようなら」を言う前に、園児は手をつないで、円(輪)になるのですね。その時、その輪の中にうっかり入りそびれてしまったAさんが、とっさに放った言葉が、
「入れて」でした。
これは、普通、「入れて」の「い」より「れて」にアクセントをつけて言うのが一般的な言い方かと思いますが、その時、Aさんが言ったのは、「い」と「て」にアクセントをつけて、「れ」をやや低めに発音したのでした。そうして、Aさんは、その輪の中にすんなり入って行ったのは、言うまでもありません。私は、その時、Aさんはなぜそのような変わったアクセントで発語したのだろう?と思ったのです。
考えてみると、幼稚園のなかで使われる言葉には、こういう独特のアクセント(や音域)を使用した言葉の世界があります。食事の前の
「では、みなさんで、いただきます」や、起立を促す際の
「たーてやほい」というユニークな言葉など、一種の言葉遊びのように、独特のアクセントが使われる場面が、ここではまま見受けられます。
私は、それらが、普通の日本語を使用する以上に、その当事者同士の円滑な意思の疎通やコミュニケーションを促すということを、子どもたちは、体験を通してすでに知っているのではないかと思うのです。これは凄いことです!
つまり、小学校ではじめて「あいうえお」を学ぶ以前に、「言葉の効果的な使い方(言いよう)」という高次元のスキルを、すでに幼稚園生活をとおして学び、身につけているという事実にあらためて驚かされたのです。
言葉をどのようなアクセント、音域で発語したら意思の疎通ができるかを、すでに体験的に知っている子どもたちに、「あいうえお」を一から教える小学校での言語教育の「難しさ」と体験を通した学びの深さ豊かさを再認識させられた出来事でした。(2024.9.30)
(註):「コース」とは、保育後、教員と保護者の当番による引率で、交通ルールを学び、他学年とのコミュニケーションを図り、体力をつけることなどを目的としたひかりならではの降園方法のこと。
*「『園長!』の写真日記」は、ひかり幼稚園在園児及びそのご家族を念頭に、その日にあった出来事を写真と共に振り返りつつ、執筆するものです。