この時のために生きている

園長 東 晴也

 今日は、第一回目の運動会の総練習でした。私は昨年度まで、新潟市内にあるキリスト教の私立高校に勤めていました。その敬和学園では、6月中旬に、文化祭と体育祭を2日連続して行うフェスティバルという行事があるのですが、その中で男子騎馬戦という非常にワイルドな競技がありました。相手の騎馬上の生徒の帽子を力ずくで奪い合うという競技です。ですから、擦り傷、切り傷はあたりまえ。そんな様子を見ても特になんとも思わなかった私が、今日の総練習では、「年少さんの平均台の高さ、ちょっと高すぎない?落ちて怪我しないかな」とベテランのN先生に相談したり、年中さんがマットの上で、前転をしようものなら、「大丈夫かな、大丈夫かな、怪我しないかな」と心配したりしていました。

 そんな新米園長の心配をよそに、好天の下、ひかり会のお母様たちのハツラツとしたお手伝いに大いに助けられながら、無事に初回の総練習は終了しました。

 今日は、園児たちの疲労も考慮し、急きょ「お迎え」に変更させていただきました。午前中、お手伝いをしてくださったKさんと園庭でお話していた時でした。そのたわいもない会話を遮るように、お母様の手をにぎっていた娘さんが突然「今日は、お手伝いに来てくれて、ありがとう」とお母様に言ったのです。私は一瞬、耳を疑いました。年少の園児が、母親の幼稚園でのボランティア活動に感謝を表明しているのです。これ、園長の私のセリフですよね。私は思わず「Sさん、今何て言ったの?……。『ありがとう』って?……お利口さんだねぇ。お利口さんだね!」と、頭をなで回しながら、べた褒めしたのです。ところが、当のお母様は、「上の子もひかりでお世話になり、こういうことをよく家で言っていましたから、よく聞く言葉を言っただけかもしれません」と、爽やかな笑顔で謙虚にさらっとおっしゃるではありませんか。凄いなぁ~。私は、息子たちからは、これまでこのような謝意を言われたことがありません。

 この時のために生きている、と実感した瞬間が、私の人生では何度かありました。この一瞬のために、ただこの言葉を聞くために生きて来た、と思えるようなSさんの言葉は、私にはあまりに衝撃で、また感銘を受ける出来事でした。 

*「『園長!』の写真日記」は、ひかり幼稚園在園児及びそのご家族を念頭に、その日にあった出来事を写真と共に振り返りつつ、執筆するものです。