「美術館ごっこ」で育つ子どもの学力

園長 東 晴也

私の息子は、山形県小国町という豪雪地帯の過疎で育ち、小中学校では毎年必ず蔵王スキー場へ「スキー教室」に行っていました。そんなわけで、家族としても蔵王スキー場には、年に1回は出かけていました。もちろん、スキーを楽しむためです。スポーツが好きな長男は、ゲレンデマップを見ながら、「次はここのゲレンデを滑りたい」と言うのですね。次男は、同じゲレンデマップを見ながら、「次はこのリフトに乗りたい」と言うのです。
同じスキー場で興味の対象は対照的でした。

10月26日は、上野の「国立西洋美術館見学」ということでしたが、年長さんたちは、国立科学博物館のくじらやSLの大きさやフォルムに興奮し、上野公園の噴水にドキドキし、バスの中で見た「どらえもん」に熱狂していました。もちろん、ロダン、モネ、ミロは印象的でしたが、あの日、一体何に興味の羅針盤が振れたかは、ご本人にしかわかりません。

今日は、「美術館ごっこ」でした。上野に行く前に、事前学習をし、見学後は絵葉書の模写をし、考える人の彫刻を作り、くじらも作ってみる。あの日の思い出を他者(下級生や保護者)のために幼稚園で「ごっこ」として、バスや売店やカフェまで再現するそのこだわりと努力は、はっきり言って凄かったです。その凄さは、この子の興味関心がどこに向くのか大人側は解らないという大前提に謙虚に立ち、できるだけ広範囲に再現・表現の場を年長児に用意しようとする園の先生方の態度と覚悟に比例しているように思いました。

「ごっこ遊び」で身につく(学)力として幼児教育の世界でよく言われるのは、「創造力」「社会性」「協調性、コミュニケーション能力」「思考力」「心理的発達」と言われます。高校教育の現場で、現場教師が苦労して生徒に身につけさせたい学力の姿とは、「思考力、判断力、表現力」と「主体的対話的な深い学び」なのですが、そこにストレートに繋がる学びを幼稚園現場で行っているのが、間違いなく狭山ひかり幼稚園です。日本の子ども達の生きる力や学力のことを本気で考えている文科省官僚が、「美術館ごっこ」を見学したら、きっと感動すると思うんだけどな。
くじゃく組の皆さん、美術館ごっこをありがとう。(2023.11.29)

*「『園長!』の写真日記」は、ひかり幼稚園在園児及びそのご家族を念頭に、その日にあった出来事を写真と共に振り返りつつ、執筆するものです。